ふとセレクトショップで手に取ったフーディーに、13万円という値札が付いている。
あなたなら、どう感じますか?

「ただのスウェットじゃないか」。
そう思うのも無理はありません。
しかし、その値札の裏には、単なる「高い服」では片付けられない、複雑で豊かな“物語”が隠されています。

こんにちは、ファッションジャーナリストの城田レイです。
18年以上、ストリートとラグジュアリーが交差する最前線を見てきた私から見ると、今のハイエンドストリートは、かつてないほど面白い局面を迎えています。

この記事では、なぜ1着のストリートウェアが13万円にもなるのか、その価格の裏にある価値と理由を紐解いていきます。
これは単なるトレンド解説ではありません。
あなたが次に服を選ぶときの“視点”そのものを変える、そんな深い洞察をお届けします。

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ハイエンドストリートとは何か?

そもそも、「ハイエンドストリート」とは何なのでしょうか。
この言葉を理解するには、少しだけ歴史を遡る必要があります。

ストリートの「原点」と「進化」

ストリートウェアの源流は、70年代から90年代にかけてのスケートボードやヒップホップといった、いわゆるサブカルチャーにあります。
それは権威への反抗であり、仲間との繋がりを示すユニフォームでした。
Tシャツやフーディーは、彼らの思想を表現するためのキャンバスだったのです。

ラグジュアリーと交差した瞬間

風向きが変わったのは2000年代以降。
ラグジュアリーブランドが、ストリートカルチャーの持つ巨大なエネルギーと影響力に気づき始めます。
そして、2017年に起きたある出来事が、ファッション史を大きく動かしました。

Supreme × Louis Vuitton

この歴史的なコラボレーションは、ストリートとラグジュアリーの垣根が完全に取り払われた瞬間でした。
かつては相容れないとさえ思われた2つの世界が融合し、「ハイエンドストリート」という新たな価値観が誕生したのです。

SupremeからBalenciagaまで──文脈を辿る

この流れは、Supremeのようなストリートの王者がラグジュアリーの領域に足を踏み入れただけでなく、Balenciagaのような伝統的なメゾンがストリートの文脈を積極的に取り入れるという双方向の動きによって加速しました。

今や、ストリートウェアは単なるカジュアルウェアではなく、時代の空気感を最も色濃く反映するモードとして、ファッションのヒエラルキーの頂点に君臨しているのです。

なぜ1着が13万円になるのか?

では、本題に入りましょう。
なぜ、1着のフーディーがこれほど高価になるのでしょうか。
その理由は、決して一つではありません。

価格を決定づける5つの要素

ハイエンドストリートの価格は、主に以下の5つの要素から成り立っています。

  1. 素材 (Material):ただのコットンではありません。世界中から厳選された最高級のオーガニックコットンや、特殊な加工を施したテクニカル素材など、原料そのものが高価です。
  2. 工程 (Process):熟練の職人による複雑な縫製技術、何版も重ねるシルクスクリーンプリント、手作業による刺繍など、時間と手間のかかる工程が価格に反映されます。
  3. 流通 (Distribution):グローバルな輸送コストや関税はもちろん、ブランドの世界観を体現する旗艦店の維持費も含まれます。
  4. 数量 (Scarcity):意図的に生産数を絞ることで、希少価値を生み出します。手に入りにくいという事実そのものが、ブランドの価値を高めるのです。
  5. 思想 (Philosophy)これが最も重要です。デザイナーが込めたメッセージ、ブランドが背負うカルチャーの歴史、その1着が持つ物語。この見えない価値こそが、価格の核心を成しています。

マスではなく“語れるモノ”を選ぶ価値観

ファストファッションが「安くて、それなりに良いモノ」を大量に提供するのとは対照的です。
ハイエンドストリートを選ぶ人々は、モノが溢れる時代だからこそ、自分だけが「語れるモノ」を求めています。
それは、友人との会話のきっかけになるかもしれませんし、自分自身のアイデンティティを表現する手段にもなります。

「高い」ではなく「深い」──数字の裏にある意味

13万円という数字だけを見ると、誰もが「高い」と感じるでしょう。
しかし、その背景にある素材へのこだわり、職人の技術、そしてデザイナーの思想を知ることで、その評価は「高い」から「深い」へと変わっていくはずです。
それは、アート作品の価値を値段だけで測れないのと同じことなのです。

デザイナーの思想と時代背景

ハイエンドストリートの価値を語る上で、デザイナーの存在は欠かせません。
彼らは単なる服作りをしているのではなく、衣服を通じて時代にメッセージを投げかけています。

Virgil Ablohが変えた空気とその継承者たち

この文脈で、故ヴァージル・アブローの名を避けて通ることはできません。
彼がOff-White™やLouis Vuittonで成し遂げたのは、ストリートとラグジュアリーを融合させただけではありません。
ファッションを、社会やカルチャーについて語るためのプラットフォームへと引き上げたのです。

彼の思想は、Matthew M. Williams(ALYX / Givenchy)やHeron Prestonといった後進のデザイナーたちに受け継がれ、今もなおファッション界に強い影響を与えています。

「抵抗」か「アート」か──デザインに込められた社会性

ハイエンドストリートのデザインには、しばしば社会的なメッセージが込められています。
それは、政治的なスローガンであったり、人種問題への言及であったり、あるいは現代社会への皮肉であったりします。

「僕にとってファッションは、世界で何が起きているかを反映する鏡なんだ」

かつてあるデザイナーが語ったように、彼らは衣服をメディアとして捉え、時代の証言者としての役割を果たそうとしているのです。

ブランドに宿る“個人史”と“カルチャーの記憶”

私がNYで買い付けをしていた頃、ある小さなブランドのデザイナーと話す機会がありました。
彼の作るTシャツのデザインは、彼が育った街の風景や、若い頃に熱狂した音楽カルチャーそのものでした。
それは、彼自身の“個人史”であり、同時にその時代を生きた人々の“カルチャーの記憶”でもありました。

1着の服は、時に壮大なノンフィクション作品にもなり得るのです。

着ることで何を纏うのか?

では、私たちはハイエンドストリートの服を着ることで、一体何を身に纏っているのでしょうか。

セレブとストリートの距離感

カニエ・ウェストやリアーナといったトップセレブが着用することで、ブランドの知名度は一気に跳ね上がります。
しかし、面白いのは、彼らが着ることでブランドが「遠い存在」になるのではなく、むしろ「自分たちのカルチャーの代表者」として、コミュニティとの絆が強まる点です。

コミュニティのバッジとしてのファッション

ハイエンドストリートの服は、同じ価値観やカルチャーを共有する人々にとっての「バッジ」のような役割を果たします。
ロゴTシャツ1枚が、言葉を交わさずとも「自分はあなたの仲間だ」と伝えるコミュニケーションツールになるのです。
それは、特定の音楽やアートを愛する者同士が繋がる感覚に似ています。

読者への問い:「あなたはその1着にどんな意味を込める?」

結局のところ、服の価値を決めるのは、値札でもブランド名でもありません。
それを着るあなた自身です。
あなたはその1着に、どんな自分を投影し、どんな物語を込めますか?
その問いと向き合うことこそ、ハイエンドストリートファッションの最も刺激的な部分なのかもしれません。

ハイエンドストリートの現在地とこれから

ファッションの世界は常に移り変わります。
ハイエンドストリートの未来は、どこへ向かうのでしょうか。

Z世代以降の“意味消費”とハイエンドストリートの接点

「なぜこれを選ぶのか」という理由を重視するZ世代の“意味消費”の価値観は、思想や物語を大切にするハイエンドストリートと非常に親和性が高いと言えます。
彼らは、ブランドが環境問題や社会問題にどう取り組んでいるかにも敏感です。
これからのブランドには、より一層、真摯な姿勢が求められるでしょう。

NFTやデジタルファッションとの関係性

近年、急速に存在感を増しているのが、NFTやデジタルファッションの世界です。
物理的な「モノ」としての所有だけでなく、デジタルデータとしての「唯一性」に価値を見出す新しい動きは、ハイエンドストリートが築き上げてきた希少性の概念を、新たな次元へとアップデートする可能性を秘めています。

価値の形態特徴
物理的な服素材、手触り、実用性、現実空間での自己表現
デジタルファッション希少性の証明、仮想空間での自己表現、物理的制約からの解放

「モノ」から「存在」へ──新しい消費の文脈

これからのファッションは、単に「モノ」を消費する時代から、その背景にある思想や、デジタル空間における「存在」まで含めた、より広範な文脈で語られるようになります。
ハイエンドストリートは、その変化の最前線に立ち続けることになるでしょう。

まとめ

13万円という価格の裏には、私たちが想像する以上に深く、豊かな世界が広がっていました。

  • 13万円の背後にある「物語」と「思想」
    1着の服は、素材や技術だけでなく、デザイナーの哲学、カルチャーの歴史、そして時代の空気感を内包しています。
  • ハイエンドストリートを読み解く=時代の空気を読むこと
    なぜ今このデザインが支持されるのかを考えることは、現代社会そのものを理解するヒントになります。
  • 服を買うことは、自分自身への投資である
    何を身に纏うかを選ぶことは、自分がどんな人間でありたいかを選ぶことと同義です。

この記事を読んで、あなたの服に対する見方が少しでも変わったなら、これほど嬉しいことはありません。

最後に、あなたに問いかけたいと思います。
次に買う1着には、どんな物語を求めますか?